はじめに
リハビリ現場において立位バランスの評価方法に、立ち直り反応や踏み直り反射等を用いることがあります。
しかし反射や反応の確認で評価が終わり、だから何なのか、どうすれば良いのか、バランスの評価と理解が曖昧になってはいないでしょうか?
そこから、身体に対するアプローチを考える必要があります。
とても奥深いバランスについて記します。
今回は評価の理解までになります。
立位バランスについて
立位バランスとは、立ち姿勢を保つための能力です。人は脳を守るため転倒しないよう不安定な場所でも、自然とバランスを保ち続けるようにできています。
この反応や反射は脳や脊髄、関節受容器でコントロールされており、必要に応じて出現するようになっています。脳の支配が大きいですが、脳の損傷があっても他の部位で補いこれらの反応が出現します。
しかし、制御できる機能が備わっていても反射や反応が見られないことがあります。反射を出すための筋力と関節運動が伴わないためです。
バランスの評価において、反射を出す能力にどこの筋力や関節可動域が不足しているのかを評価することが大切になります。
立ち直り反応
前方に身体が傾けば、後面の筋肉が働き身体を垂直に戻すよう筋肉が働きます。これが後方の立ち直り反応で、左右前後の四方で評価をします。
このとき、どこの関節で立ち直り反応が出現しているかを把握します。
足首(アンクルストラテジー)か、膝(レッグストラテジー)か、股関節(ヒップストラテジー)か、体幹(ヒップと協調運動)か、複合しているのか。
外乱の強弱や姿勢の状況で出現するバランス反応と強弱が変化します。
例えば、尻相撲ではこの立ち直り反応が顕著に見られます。尻と尻が押し合った際、互いに腰が前方に押し出されます。
腰からの外乱刺激なので、そこから中心にバランス反応が出現します。
押し出される力(外乱)が強ければ体幹は反った状態になり、股関節は脚が後ろに伸び、膝も伸びてかかとは上がります。
押し出される強さが軽度なら体幹と股関節の伸展だけで制御されますが、それだけの反応ではバランスを保てないと膝や足首でもバランスを保とうと伸びてくるのです。
後方に外乱刺激があり、前方にバランス反応が出現する際は前面の筋群が働きます。つま先が上がり、お尻は引けます。前脛骨筋や体幹股関節の屈筋群が働きます。キャイーンのポーズな感じです。ちょっと古いかもですね。
左右では体幹の側筋や股関節の内外転筋群、足底筋群等が働きます。
踏み直り反射
押されたり足元が滑って身体の傾きが大きくなったとき、立ち直り反応では転倒を防げないため一歩脚を踏み出すことを、踏み直り反射と言います。これも四方で評価をします。
尻相撲で押されて負けた際は、一歩以上前方に脚を踏み出していますね。逆に腰を引き過ぎてアタックが空振りし、後方に一歩踏み出すこともあると思います。それぞれ前方と後方の踏み直り反射です。
評価の理解
バランス能力が高い場合
外乱刺激を続けても、立ち直り反応だけで姿勢を制御し、踏み直り反射が出にくい場合があります。
立ち直り反応が強く出現して制御できる方ほど、バランス保持力が強く踏み直り反射は見られにくくなるのです。
このような場合は外乱刺激の与え方を工夫します。
重心から遠いところから外乱を与えると、多くの関節と筋肉で制御できてしまうので立ち直り反応だけが顕著に見られます。
重心をズラすくらいに、両手でしっかり骨盤周囲を押したり引いたりすれば踏み直り反射が見られるはずです。
また、立ち直り反応がどの方向に強く出現しているかを把握することは大切です。苦手な立ち直り方向を改善することが、バランス練習に直結するためです。
骨盤を左右に揺らした際に、どちらが大きく動くか評価します。左に動かせば体幹は右側に、右に動かせば体幹は左側に立ち直ります。大抵の方は体幹の立ち直る強さに左右差があります。
バランス能力が低い場合
- 立位保持に介助が必要
- 立位をガチガチにしてなんとか保持している
- すぐにどこかに掴まろうとする
- 軽い外乱刺激で恐怖を訴える
このような場合はバランス能力が低いと言えます。支持基底面が狭く不安定で、重心移動にゆとりがありません。ですが、反射を引き出すことは可能です。
外乱で恐怖を訴える方の踏み直り反射を出現させるには、しっかり骨盤を抑えながら最初の外乱である程度強く刺激し、恐怖を訴える前に反応を引き出しましょう。
少しずつ外乱を強くすると、まれに恐怖で怒り出す方もいるので注意が必要です。
学生時代に実習で反射を引き出したく、少しずつ刺激していたら患者さんにいきなり怒鳴られたのを思い出しました。評価することに必死になりすぎて、相手のことを考えられなかったのです。今となっては良い経験です。体調や気分を無視して評価しないように注意しましょう。
より高度なバランス能力
以前テレビで、震度6を体験し誰が立っていられるかという番組を見たことがあります。
①子供
②バレエダンサー
③大工さん
そこの体験設備は床面が左右だけなのか、とにかくとても動いて揺れていました。人はすごい装置を開発しますね。震度6は相当な外乱になりますが、見事立っていられたのはバレエダンサーです。その他は立っておられずすぐに手を床についてしまいました。
バレエダンサーは踏み直り反射は出ず、股関節と体幹の立ち直り反応でごく自然に立ち続けていました。揺れに対して頭の位置はあまり変わらず、足の方が床と同時に揺れながら安定して立ち続けることができるのです。身体を固めるのではなく、柔軟に使う方がバランスを保持できるという証でしょう。より高度なバランス能力と評価できます。
評価結果の検討方法
立位バランスを評価検討するのは、基本的には歩行や立位レベルの活動を行うのに不足している能力を把握するためです。
歩行に必要なバランス能力を補うのに、杖や歩行器、シルバーカー等の補助具を使うのと、立位バランスを向上させるための能力を高めるのを同時進行で行う必要があります。
これらはある程度のパターンで検討できます。そこにどこの能力や環境調整が必要かは個人差があります。検討する内容を細かくしてアプローチに繋げていきます。
検討方法の例です。
立位レベル
- 立位保持のために必要な下肢筋力と関節の安定性が確保できているか。
- 体幹と下肢の協調性は保たれているか。
- 上肢支持等で立位保持が可能か。
- 支持基底面が狭い原因は何か。
- 固定筋力は持続的に働かせられるか。
- アウター筋が過剰に優位になっていないか。
歩行レベル
- 立脚期、遊脚期にゆとりはあるか。
- 体幹の安定性は保たれているか。
- 立ち直り反応の方向や部位、左右差はないか。
- 痛みの原因は何か。
評価結果を検討し、更にその原因を細分化することでアプローチ方法が検討できます。基本的には体幹と股関節の協調性がある程度保たれていれば立位レベルの動作は可能です。この協調性が、左右なのか前後なのか、どのタイミングなのか、どこの筋力なのか、関節は動いているか等を検討し、調整することでバランス能力の向上を図ることができます。立位や歩行レベルの動作効率が向上し、全身耐久性も拡大するのです。
おわりに
立位バランスの評価はとても大切です。評価するに当たって、正常な人のバランス反応やバランス能力について理解すること、バランスを見る観察力を高めることが必須です。ただ反応がでて『正常』で評価を終わらせないで、どの程度のバランス能力だからここを操作するまで、しっかし認識してアプローチに繋げましょう。