生活リハビリをご存知でしょうか?
その名の通り、日常生活のリハビリです。僕らセラピストは生活リハビリを獲得してもらうためにリハビリテーションを提供していると言っても過言ではありません。
今回はその重要な生活リハビリについてです。
生活リハビリとは
生活動作そのものをできる範囲で自分で行うリハビリのことです。
人は身体のどこかに支障をきたすと入院したり患ったりします。
その支障の影響で以前できていたことができなくなることがあります。
このできなくったことを再獲得することがリハビリテーションの1つの目的です。
完全に再獲得できなくても、なるべく自分で満足できるようにする。
身体の支障によっては治療後も元の状態に戻らず、後遺症が残ります。
後遺症がありながらも、可能な範囲で生活動作を自分でする必要があります。
治療中から状態に合わせた生活リハビリが求められるのです。
生活リハビリの早期導入が重要
身体の支障により寝ている時間が増えると、それだけ筋力は衰えます。
普段している生活動作で人間は筋力を使っているのです。
筋力低下が大きいと寝起きから大変になり、ひどい場合は寝たきりになってしまいます。
なるべく早期に生活リハビリを導入することが大切です。
現在は術後すぐにリハビリテーションをします。
リハビリテーションを通して、患部を配慮した生活動作の練習をします。
セラピストによるリハビリ室でのリハビリテーション時間だけ生活リハビリをするのは不十分です。日々の生活の中でも導入する必要があります。
できる生活動作を把握して、病棟や施設、自宅でも自分で生活リハビリできる環境を整えることが大切です。
自分で工夫できる方は早期に自然と生活リハビリをしています。
自分で環境を整えられない場合は、看護師や介護士と連携して、できる生活リハビリの導入を試みます。
生活リハビリの段階
患部を含めて日常生活で使用を促し、可能な姿位に合わせた段階があります。
臥位 ➡ 座位 ➡ 立位
この段階で、重力に抗して一般的な日常生活動作を行います。
ポイントは可能な限り起きて、協力動作を促すこと。
できる動きはどんどん自分で少しでもすることが大切です。
歯磨きを例にすると、
ベッド上で実施 ➡ ベッドから起き上がり座って実施 ➡ 洗面所で座って実施
➡ 洗面所まで移動後、立ったまま実施
さらに歯磨き動作に介助を要するか、セッティングすれば可能か、口はゆすげているか等、どの動作に介助が必要かを検討します。
このように能力に応じた適切な生活リハビリの提供が求められます。
セラピストが行う生活リハビリ
必要な機能訓練を見定める
生活リハビリの段階を進めるために機能訓練を行います。
目的の動作ができるためにはどのような姿勢でどの部位がどう固定したり動いたりする必要があるか。筋力や関節の柔軟性が足りているかを把握し、実動作の練習を行います。
しっかりと必要な機能訓練を見定めリハビリテーションを進めましょう。
獲得した生活動作の確認は最小限に
例えば食堂に一人で行けるようになった場合の、その人のリハビリ時間で歩行訓練として食堂までただ歩く練習。 これはすでに獲得した歩行レベルです。自然と3食食堂まで歩くことになるため安全が確認できればリハビリでは同じ歩行ではなく、さらに高次で考える必要があります。
連続歩行距離は延ばすにはどの機能が必要か、痛みや代償動作が出てこないか、身体の使い方は良好か、安定性を向上できるか等、その動作の質を高められるアプローチが求められます。
リハビリ時間では獲得した生活動作は確認で最小限に留め、不足している機能訓練や応用練習でその動作の質を高めることで生活リハビリの段階を進めることができるのです。
生活リハビリの限界も把握する
人により後遺症のため獲得できる生活動作の限界が異なります。以前できていたレベルまで到達できない場合は目標としている動作の限界を把握して訓練する必要があります。
獲得したその人の最大限の生活リハビリを継続することで身体機能の維持を図り、生活レベルが低下しないよう維持的リハビリテーションを行います。
生活リハビリの配慮すべき要素
生活リハビリをする本人への指導
患部がある場合、どの程度動かしたり使ったりして良いかを把握していないことが多いです。機能訓練後に実際にこのような使い方はできる、しましょう、と確認と助言をすることが大切です。
そして無理はさせないこと!
過剰な身体の使い方は病状を悪化させるリスクがあります。痛みや疲労で動作が不十分な際にはリハビリで少しずつ取り組んでいきましょうと助言します。
他職種への情報提供
生活リハビリの段階が上がったら都度情報を提供しましょう。
環境によってはリハビリスタッフからの許可が必要なこともあります。この動きは大丈夫、このようなことができる等、緻密な情報提供が連携を強化します。
逆に過度な使い方を強要するスタッフも見たり聞いたりしたことがあります。
術後間もなく痛みが強いのにただ立てと指導するセラピスト、できなきゃ家に帰って何もできない等と厳しめの指導をする看護師。
能力に見合った適切な指導ができていないのです。そういう方は自分のケアに過ちがあることに気付いていません。
直属上司などに相談や情報提供し、少しでもその人が成長できるよう願いましょう。
スタッフの連携が必要
セラピストは最大限に患部の能力を引き出し生活リハビリに繋げます。
できる生活リハビリは状態と能力で変化するので円滑なスタッフ間の連携が求められます。
連携が難しいこともある
病院や施設により生活リハビリに対する考えが異なる場合
知人の看護師は生活リハビリという用語を知りませんでした。
知識や経験により、生活リハビリへの取り組みが全く異なるのです。
『病院は患ったところを治療するところ』
基本的にはそうなのですが、それだけでは人としての体力が低下します。全身の筋力が低下する廃用症候群になってしまい、患部とは別の病状が現れるのです。
しかし元の病原とは異なるのであまり意識されないことも見られます。
『患者を診ずに、病状だけ診ている』
セラピストが生活リハビリを提案しても、
『危険だからできない』
『時間がかかるのでそのような介助はできない』
と、協力を得られないこともあるかも知れません。
関わるスタッフの価値観や方針によって、適切な生活リハビリの導入がとても難しくなるのです。
介護老人保健施設のリハビリの捉え方
『老健はリハビリするところ』
もちろんそうなのですが、重要なのは生活リハビリも含めた施設生活全体を通してのリハビリです。
セラピストが20分行うリハビリだけではとても足りません。
介護士や看護師も協同してリハビリテーションを提供することが求められます。
リハビリ部門が生活リハビリを導入できる体制になっているか
他職種との連携もですが、セラピスト間の体制もとても重要です。
リハビリテーションがリハビリ室のみの動きで終えていないか。
機能訓練や集団の体操など、リハビリ内容に偏りがある場合は実際の生活動作への介入が疎かになることがあります。
リハビリ対象者は大勢おり、リハビリ職員が必要に応じて日常生活に関わることで他職種にも生活リハビリの重要性を理解してもらうことができます。
一人で頑張っても大勢の他職種に協力を得られることは難しいため、リハ職全体で生活リハビリを意識することが大切です。
見切りをつけることも一つ
職場環境によっては導入が難しい生活リハビリ。
自分でできるリハビリやケアには限界があります。
仲間や上司に相談しても変えられない現実があるかもしれません。
協力が満足できるところまでいけなくとも、見切りをつけてしっかりと自分のできる最大限のリハビリテーションを提供し続けましょう!
生活リハビリの期待
生活リハビリが進むとその人の自立度が上がり、介助量は軽減していきます。最初は介護業務の負担になることもありますが、最終的には業務量が軽減しその人にとってもより良いケアになります。人が人らしく生活できることはみな少なからず望んでいるのです。
生活リハビリとケアの統一ができる体制が整っているところはとても恵まれています。体制の構築には管理職同士の協力とリハビリスタッフの情報発信が不可欠です。
なるべく多くのよりよい介護と医療が提供される世の中になることを強く願います。